判   例

最高裁平成4年11月16日第1小法廷判決 大阪地蔵像違憲請求事件(判例時報1441号57頁)

主   文


本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人宮永尭史、同持田明広の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り原判決に所論の違法はない。右事実及び原審が適法に確定したその余の事実関係によれば(1) 本件において、大阪市が各町会に対して、地蔵像建立あるいは移設のため、市有地の無償使用を承認するなどした意図、目的は、市営住宅の建替事業を行うに当たり、地元の協力と理解を得て右事業の円滑な進行を図るとともに、地域住民の融和を促進するという何ら宗教的意義を帯びないものであった、(2)もともと本件のような寺院外に存する地蔵像に対する信仰は、仏教としての地蔵信仰が変質した庶民の民間信仰であったが、それが長年にわたり伝承された結果、その儀礼行事は地域住民の生活の中で習俗化し、このような地蔵像の帯有する宗教性は希薄なものとなっている、(3) 本件各町会は、その区域に居住する者等によって構成されたいわゆる町内会組織であって、宗教的活動を目的とする団体ではなく、その本件各地蔵像の維持運営に関する行為も、宗教的色彩の希薄な伝統的習俗的行事にとどまっている、というのである。右事実関係の下においては、大阪市が各町会に対して、地蔵像建立あるいは移設のため、市有地の無償使用を承認するなどした行為は、その目的及び効果にかんがみ、その宗教とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし信教の自由の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法二〇条三項あるいは八九条の規定に違反するものではない。このことは、最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決(民集三一巻四号五三三頁)及び最高裁同五七年(オ)第九〇二号同六三年六月一日大法廷判決(民集四二巻五号二七七頁)の趣旨に徴して明らかであり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論違憲の主張は、原判決を正解せず又は独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、また、所論引用の判例中最高裁同三六年(あ)第四八五号同三八年五月一五日大法廷判決(刑集一七巻四号三〇二頁)は、本件と事案を異にし適切でない。論旨は採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治 裁判官 三好達