判例

S37.03.29 第一小法廷・判決 昭和33(オ)963 建物収去土地明渡請求(第16巻3号662頁)

判示事項:

賃料延滞による賃貸借の解除と転借人に対する催告の要否。

要旨:

適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人盛川康の上告理由第一、二、三点及び上告代理人中原盛次の上告理由について。
 しかし、原判決は、所論転貸借の基本である訴外Aと亡Bとの間の賃貸借契約は、同人の賃料延滞を理由として、催告の手続を経て、昭和三〇年七月四日解除された事実を確定し、かかる場合には、賃貸人は賃借人に対して催告するをもつて足り、さらに転借人に対してその支払いの機会を与えなければならないというものではなく、また賃借人に対する催告期間がたとえ三日間であつたとしても、これをもつて直ちに不当とすべきではないとして、上告人の権利濫用、信義則違反等の抗弁を排斥した原判決は、その確定した事実関係及び事情の下において正当といわざるを得ない。引用の各判例は、本件と事案を異にし、本件に適切でない。
 所論はひつきよう独自の見解に立つものであるから採るを得ない。
 上告代理人盛川康の上告理由第四点について。
 しかし、原判決引用の一審判決理由をみれば、所論主張について判断されていることが窺われるから論旨は理由がない。
 同第五点について。
 しかし、終結した弁論の再開を命ずるか否かは、裁判所の裁量に属するところであり、本件訴訟の経過に鑑みれば、原審が所論弁論の再開を命じなかつたからといつて所論の違法があるとはいえない。
 同第六点について。
 しかし、記録によれば、吉岡代理人は本件一審において被上告人の訴訟代理人として適法に訴訟行為をなし、その代理委任状によれば、右代理人は二審における上告人提起の控訴に対しても訴訟行為をする権限を有したものと認められるから、所論委任状の如何に拘らず、同代理人の原審における訴訟行為は適法になされたものといわざるを得ない。それゆえ論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   木   常   七
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫