判例

S37.10.12 第二小法廷・判決 昭和35(オ)646 詐害行為取消並売掛代金請求(第16巻10号2130頁)

判示事項:

詐害行為取消の訴と債権の消滅時効の中断。

要旨:

債権者が受益者を相手どつて詐害行為取消の訴を提起しても、債権につき消滅時効中断の効力を生じない。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         

理    由

 上告代理人入江俊二、同入江正信、同箕田正一の上告理由第一点について。
 民法一七三条一号は、消費者に対し売却した商品の代金債権についてのみならず、卸売商人が転売を目的とする者に対し売却した商品の代金債権にも適用されるものであるから(昭和三六年五月三〇日第三小法廷判決、民集一五巻一四七一頁)、本件において、被上告人Aが卸売商人であつたとしても、同じく卸売商人たる上告人らの同被上告人に対する売掛代金債権は右規定の適用を受け、二年の短期消滅時効に罹るとした原審の判断は正当である。所論は独自の見解に立つて原判決を非難するものであり、採用できない。
 同第二、三点について。
 上告人らが、被上告人Aに対する売掛代金債権の消滅時効完成前である昭和二九年七月五日、同被上告人が被上告人Bに対してした本件不動産の譲渡を詐害行為であると主張し、被上告人Bを被告として該詐害行為取消の訴訟を提起したことは原審の確定したところである。しかし、上告人らは、右訴訟において、単に詐害行為取消の先決問題たる関係において、本件売掛代金債権を主張するにとどまり、直接、債務者たる被上告人Aに対し栽判上の請求をするものではないから、右詐害行為取消訴訟の提起をもつて、同被上告人に対する前示債権の時効の中断があつたものと解することはできない。この理は、右訴訟において被上告人Aが相手方たる適格を認められないため当事者として訴訟に関与するに由ないからといつて、なんら異なるところはないといわなければならない。叙上と同趣旨に出でた原判決は正当であり、これを非難する所論は採用できない。
 同第四点について。
 上告人らの被上告人Aに対する売掛代金債権の存在を認めえないとした原判決の正当なことは論旨第一ないし第三点につき説示したところにより明らかであるから、該債権の存在を前提とする上告人らの本件詐害行為取消請求を排斥した原判決は正当といわなければならない。所論は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介