判例

S39.06.12 第二小法廷・判決 昭和38(オ)680 約束手形金請求(第18巻5号764頁)

判示事項:

詐害行為取消権の行使の方法。

要旨:

詐害行為取消権の行使は、訴の方法によるべきであつて、抗弁の方法によることは許されない。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人畠山国重、同鍵尾丞治の上告理由について。
 論旨は、民法四二四条の詐害行為取消権は必ず訴をもつて主張すべきであつて抗弁をもつてこれを主張することは許されないという見解のもとに、上告人主張の詐害行為の抗弁は主張自体理由がないとしてこれを排斥した原判決は、右法条の解釈、適用を誤つた違法がある、という。
 しかし、民法四二四条の詐害行為の取消は訴の方法によるべきものであつて、抗弁の方法によることは許されないものと解するのを相当とする。けだし、取消権の行使は相手方に対する裁判外の意思表示によつてこれを行うべき場合があり、裁判上の意思表示によつてこれを行うべき場合があり、あるいは相手方に対する訴によつてこれを行うべき場合があるが、そのいずれの方法によるべきかは、各場合における法律の規定を解釈してこれを定めなければならない。取消しうべき法律行為の取消については民法一二三条に「相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス」と規定し、否認権の行使については破産法七六条に「訴又ハ抗弁ニ依リ破産管財人之ヲ行フ」と規定しているのに反し、詐害行為の取消については、民法四二四条に「裁判所ニ請求スルコトヲ得」と規定しているから、訴の方法によるべく、抗弁の方法によることは許されないものと解するのを相当とする(大審院明治三〇年一〇月一五日判決、民録三輯九巻五八頁、同大正五年一一月二四日判決、民録二二輯二三〇二頁参照)。右と同趣旨の見解のもとに、上告人主張の詐害行為取消の抗弁を主張自体理由がないとして排斥した原判決は正当である。
 所論は、右と異なる独自の見解に基づき原判決を論難するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外