判例

S40.09.10 第二小法廷・判決 昭和38(オ)1349 建物収去土地明渡請求(第19巻6号1512頁)

判示事項:

要素の錯誤による意思表示の無効を第三者が主張することは許されるか。

要旨:

表意者自身において要素の錯誤による意思表示の無効を主張する意思がない場合には、原則として、第三者が右意思表示の無効を主張することは許されない。

主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人阿部幸作、同越智譲の上告理由第一点について。
 原判決は、民法九五条の律意は瑕疵ある意思表示をした当事者を保護しようとするにあるから、表意者自身において、その意思表示に何らの瑕疵も認めず、錯誤を理由として意思表示の無効を主張する意思がないにもかかわらず、第三者において錯誤に基づく意思表示の無効を主張することは、原則として許されないと解すべきである、と判示している。
 右原審の判断は、首肯できて、原審認定の事実関係のもとで上告人の所論抗弁を排斥した原審の判断に所論違法はない。
 従つて所論は、採用できない。
 同第二点について。
 原判決は、上告人が所論Aと本件宅地を共同賃借したとの上告人主張事実を証拠上認められないとしているのであつて、右事実認定およびその証拠の取捨判断は原審の専権に属することである。従つて、右と異なる事実関係を前提として、原判決の「建物保護ニ関スル法律」一条の解釈の誤りをいう所論は、採用できない。
 また、本件一筆の宅地の半分づつを上告人とAとが同時に賃借したとして、Aが右賃借地上に所有する建物につき保存登記をした以上、「建物保護ニ関スル法律」一条により上告人も自己の賃借地上について対抗力を取得するという所論は、独自の見解にすぎず、採用できない。
 同第三点について。
 原判決がその認定事実関係のもとで被上告人の本訴請求は権利濫用といえないとしたことは、首肯できて、原審判断に民法一条三項の解釈の誤りがあるとの所論は、採用できない。
 原判決は、所論のように、権利濫用が成立するための要件として権利者が相手方を害する目的で権利を行使することが必要であるとは判示していないのであるから、右を前提とする所論は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外