判例

S44.05.27 第三小法廷・判決 昭和42(オ)99、昭和42(オ)100 土地所有権移転登記手続請求(第23巻6号998頁)

判示事項:

甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合に甲は丙に対して登記の欠缺を主張することができるか

要旨:

甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し、丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合においては、甲は、丙に対して、登記の欠缺を主張して右不動産の所有権の取得を否定することはできない。



主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         

理    由

 上告代理人野田孝明、同山本進一、同山崎賢一の上告理由第一点、および同斉藤孝知の上告理由第二、三点について。
 亡Aが亡Bの承諾を得て、本件係争物件を右B名義をもつて競落した旨、および被上告人Cが同女の相続人Dからこれを善意で買い受けた旨の原審の認定判断は、原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らして肯認することができ、原審の確定した右事実関係に対し通謀虚偽表示に関する民法九四条二項の規定を類推適用すべきものとした原審の判断は、正当である(その引用する当裁判所の判例参照)。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、原審の専権に属する証拠の評価ないしは事実の認定を非難するか、原審の認定にそわない事実を前提とする独自の見解であつて、採用できない。
 上告代理人野田孝明、同山本進一、同山崎賢一の上告理由第二点第一について。
 所論通謀虚偽表示の撤回に関する主張は、上告人が原審において主張しなかつた事柄であるから、原審がその点について判断しなかつたのは相当である。のみならず、仮りに、BとAの間において所論のような通謀虚偽表示の撤回があつたとしても、虚偽表示の外形をとり除かない限り、右虚偽表示の外形を信じその撤回を知らずに取引した善意の第三者にはこれをもつて対抗しえないと解すべきであるから、この点に関する所論は採用できない。所論の事実関係が長期にわたつて継続していたとの事実も、右判断を左右するものではない。なお、原審は、被上告人Cの代理人重利は、その所有名義人がBであること、およびその所有者は当時右Bの相続人であるDであることを確認したうえ、本件係争物件を買い受けた旨を判示したに止まり、右物件
が当時Dの所有であつた旨を判示したものではないから、その判断に所論の理由齟齬の違法はない。したがつて、原判決には所論の違法はなく、所論は独自の見解であつて、採用できない。
 同第二ついて。
 所論は、要するに、被上告人(参加人)は、本件係争不動産について所有権取得登記を有しないから、第三者たる上告人に対抗できない、すなわち、本件の場合、上告人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたるというにある。
 しかしながら、民法九四条が、その一項において相手方と通じてした虚偽の意思表示を無効としながら、その二項において右無効をもつて善意の第三者に対抗することができない旨規定しているゆえんは、外形を信頼した者の権利を保護し、もつて、取引の安全をはかることにあるから、この目的のためにかような外形を作り出した仮装行為者自身が、一般の取引における当事者に比して不利益を被ることのあるのは、当然の結果といわなければならない。したがつて、いやしくも、自ら仮装行為をした者が、かような外形を除去しない間に、善意の第三者がその外形を信頼して取引関係に入つた場合においては、その取引から生ずる物権変動について、登記が第三者に対する対抗要件とされているときでも、右仮装行為者としては、右第三者の登記の欠
缺を主張して、該物権変動の効果を否定することはできないものと解すべきである。この理は、本件の如く、民法九四条二項を類推適用すべき場合においても同様であつて、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人らは、被上告人Cが本件不動産について所有権取得登記を経由していないことを理由として、同人らのこれに対する所有権の取得を否定することはできないものというべきである。したがつて、これと同旨の原判決は正当であつて、論旨は採用できない。
 上告代理人斉藤孝知の上告理由第一点について。
 事件の差戻を受けた第一審裁判所がこれを差し戻した控訴裁判所の判断に拘束されるのは、右控訴審判決の理由中に示された一審判決の破棄理由に止まり、それ以外の点については何らの拘束を受けるものではないから、差戻後の第一審裁判所が差戻前の第一審判決と異なる認定または判断をなしうることは当然である。その理は、控訴審判決が差戻前の第一審の訴訟手続に関する法令違背のみを理由として事件を第一審裁判所に差し戻した場合も同様である。所論は、独自の見解で採用できない。
 同第四点について。
 記録に顕れた原審の審理の経過に照らせば、原審が口頭弁論を再開しなかつたのは相当であつて、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷