判例

S50.07.17 第一小法廷・判決 昭和49(オ)302 譲受債権支払等請求(第29巻6号1119頁)

判示事項:

旧債権発生後これを目的とする準消費貸借契約締結前にした債務者の詐害行為と債権者の取消権

要旨:

債務者による詐害行為当時債権者であつた者は、その後その債権を目的とする準消費貸借契約を締結した場合においても、右詐害行為を取り消すことができる。



主    文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人菅生浩三の上告理由第二点について。
 準消費貸借契約に基づく債務は、当事者の反対の意思が明らかでないかぎり、既存債務と同一性を維持しつつ、単に消費貸借の規定に従うこととされるにすぎないものと推定されるのであるから、既存債務成立後に特定債権者のためになされた債務者の行為は、詐害行為の要件を具備するかぎり、準消費貸借契約成立前のものであつても、詐害行為としてこれを取り消すことができるものと解するのが相当である。これと見解を異にする所論引用の大審院大正九年(オ)第六〇二号同年一二月二七日判決・民録二六輯二〇九六頁の判例は、変更すべきものである。ところで、原審の確定したところによれば、被上告人日機工業株式会社は、昭和四〇年二月一五日債務超過により倒産した訴外興和機械株式会社(以下訴外会社という。)に対し、昭和三九年九月一〇日から昭和四〇年一月三〇日までの間に生じた貸金債権金二九九万二八四〇円及び売買代金債権金五一一万五七四〇円を有していたが、同年二月二四日、訴外会社との間で、右各債権の合計金八一〇万八五八〇円を消費貸借の目的とする準消費貸借契約を締結したところ、訴外会社は、右契約締結前の同年二月一九日に、債権者の一人である上告人に対し、他の債権者を害する意思をもつて、自己の被上告人椿本興業株式会社に対する請負代金債権を譲渡し、右譲渡の通知書は同年二月二一日同被上告人に到達したというのであり、右事実によれば、右債権譲渡行為を詐害行為として取消を求める被上告人日機工業株式会社の請求を認容した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第一点、第三点及び第四点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光